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読解力は「記憶との対話」で養われる

<読解力で足りないもの>

 よく「語彙力」が足りないと読解力がつかないと言われます。「言葉の意味が分からないと文章の意味が分からない」というのは当たり前の事ですが、ある程度学力がある子でも「国語力が低い」と言われる子がいます。ある程度は言葉の意味も分かり、普通に本を読んだりするのですが、いざ、テストなどで内容を問われると「肝心な部分を外してしまう」というタイプの子供さんです。  で、こういうタイプの子は何が足りないかというと「読書のときの、自分の記憶との対話」が少ないのです。


 どういう事かと言うと、うちの姪っ子の例をとりますが、うちの姪っ子は「うちの三姉妹」というマンガが大好きで、特にこのお話で毎回大笑いです。その話とは  あるお宅でお姉ちゃんがいないときに、お母さんと妹がマクドナルドに行きました。ところが「お姉ちゃんに言うと私も行きたかった~」と駄々をこねだすから、お姉ちゃんには内緒だよ、と口止めされていたにも関わらず、家に帰ってきたお姉ちゃんにその事をどうしても話したくなってしまい、ついに「お姉ちゃん、お姉ちゃん、パラッパッパッパ〜、あい、らびに(I'm lovin' it)」と言ってしまった、というもの。


 これで笑うためには、まず「あい、らびに」がマクドナルドのCMであるということが分かっていなければなりません。そして、お母さんに口止めされていたという事が「マクドナルドに行ったと言ってはいけない」という事であるということが分かっていなければなりません。そして、どうしても言いたいと思っていた、その娘の気持ちが分かっていなければなりません。  ですから、この内容が自分の経験や知識と照らし合わせて、どういうものであるかが認識出来ないと、内容が分からないのです。


 これが、中学、高校と進んで行くにしたがって、さらに高度になります。  例えば、小説文では「情景描写で登場人物の心理を表す」というのは鉄則で、「寒い」「冷たい」などの表現が出てくると大抵は「悲しい」「寂しい」という心理と連動させて読まなければなりません。

 さらに論説文では、大学受験の際に出てくる「形而上学」というような哲学に関する用語の知識がなければなりませんし「夏目漱石の'こころ'の中にも・・・」という文章が出てくると、その本の内容を知っているか知らないかで理解の度合いが大きく変わります。  このように「読書」というのは、自分の記憶を常にフィードバックしながら、その文章の内容を理解していかなければなりません。


 ところが、情景描写が出てきても「あ、そういう景色だったんだな」でお終いになっていれば、登場人物の心理は分かりませんし、夏目漱石の「こころ」が「2人の男が1人の女の人を好きになって、競争して勝った方がその女の人と結婚するという約束だったが、一方の男がもう一方の男を騙して、その女の人と結婚してしまった」というストーリーを知らないと、引用した内容がチンプンカンプンになってしまう事が考えられます。


 このように、読書というのは、必ず、自分の知識や経験と照らし合わせて読んで行かなければなりません。すなわち、読書は「記憶との対話」によって完成するのです。国語が不得意という人は、文章で扱っている内容の知識や経験がないか、もしくは、記憶と結びつけて読むという方法が分からないのだと思います。


 そのため、国語の指導は「語彙力を増やし、知識を増やす」という「雑学王」のような解説と「記憶と文章の内容を結び付ける方法」を具体的に示す指導が欠かせません。灘高校の中勘助の「銀の匙」を扱った「伝説の国語の授業」について本が出ていますが、これも「現代ではあまり行わなくなったことを、実際に体験することで本の内容をしっかり読み取っていこう」という主旨のものでした。

 

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