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「原理回帰」と「語学」

 今回も、前のホームページに2012年に書いた内容です。

 2日前にアップした「解法記憶」と「原理回帰」の続編ですから、そちらを読んでいない人は、まず、そちらを読んでから、こちらの内容を見てください。

 どちらかと言うと、指導側の話で、学校の先生や、学習内容に詳しいお父さん・お母さん向けの内容となっています。


<「原理回帰」は理系だけのものではありません>

 物事の本質を捉えて考えようという「原理回帰」。前では理数系を伸ばすということでお話しましたが、実は、文系科目でも必要な考え方なんですね。そこで、ここでは「語学」との関連で考えていこうと思います。


 語学と言ってまず大切なのは「国語」ですね。ここで原理を身につけてそれで物事を理解していこうということになると、やはり、漢字を例にとってお話するのがいいのではないかと思います。  それで、今回、例にするのは、以前にも書いたのですが「おさめる」という漢字を書く場合、どういう書き分けをするかということです。

 「おさめる」には「(ものをどこかに)収める」「(お金を)納める」「(学問を)修める」「(国を)治める」の4つのパターンがあって、それぞれの持っている意味が分からないときちんとした書き分けが出来ません。


 それで、ここで「成功をオサめる」という文で「カタカナ部分を漢字にしなさい」という問題が出てきた場合、どうするかということを考えます。もちろん「解法記憶」で、「成功をオサめる」というときは「これ」と覚えてしまっても構わないのですが、こういう書き分けを他の漢字でも行うということを考えると、相当な量を覚えなくてはならないということになりますよね。ところが、読書などで「成功を手中にオサめる」なんていう表現をどこかで見た記憶があるなら、手の中という場所におさめる訳ですから、ここで使うのは「収める」になるということが分かる訳です。このように「原理回帰」が出来るようになっていると、身の回りの経験などから、答えを導き出すことが出来るようになるんですね。


 漢字ではもう一つ。「因果関係」という熟語の場合、意味は「原因と結果の関係」ということですよね。これも意味が分かっていると「原因の因」と「結果の果」を合わせて「因果」という熟語が出来ているということなので、漢字を間違いなく書けるんですね。でも、これを知らずに、単にこういう漢字を書くんだと覚えても、テスト用に覚えているだけで、実際に使うことは難しいと思います。  もちろん、意味が分かっていないと「いんが」を「引我」と書いちゃったりする子も出てくる訳で、ですから、最低限、意味は「覚える」という事が必要です。すなわち、根本的な「原理」に当たる部分は最低限「知識」として押さえておかなくてはならない訳で、ここを無視して単に「考えろ」とやるのは愚かな事なんですね。


 そして、たぶん、お父さん・お母さんの頃に「原理回帰」が行われず、ひたすら「解法記憶」で勉強しろと言われてきたのが「英語」なんです。

 この部分で、よく引き合いに出されるのが「on」。お父さん・お母さんの頃は「上に」というふうに習ったと思いますが、机やテーブルだと「上に」でも分かりますが、壁でも「on(壁に掛かっている〜on the wall」天井にあっても「on(on the ceiling)」、挙げ句の果てには「I'm on the team.」で「私はチームに入っている」という訳が出てきて、「on」は「所属を表す」なんて習っていた訳ですよ。要するに、一つ一つの使い方を細かく分けて、それを一つ一つ覚えようとやっていた訳です。

 ところが、最近では、この「解法記憶」から「原理回帰」に教え方が変わってきていて、元々の英語の意味を捉えて、そこから意味を広げていこうという方式になってきているんですね。  で、「on」の元々の意味ですが、これは「接触している」という意味なんです。だから、上にのっていて机やテーブルにくっついている場合は「on」、壁でも天井でもくっついていれば「on」で、「チームにくっついている」ということであれば「チームに入っている」と考えましょう、という方式になってきています。

 ということで、「一つ一つバラバラに覚えた方が覚えやすい」という人は、従来通り「解法記憶」で大丈夫ですが、何か「中心になる核があって、それに関連させた方が覚えやすい」という人は「原理回帰」法で記憶した方が覚えやすいのではないかと思います。

 そして、たぶん、昔、理系が得意だったという人は、無味乾燥に覚えるものに抵抗があって、どうしても「英語が不得意」と感じていたと思いますが、こういうふうに「意味を付け加えること」によって、記憶に抵抗が無くなるという現象も起きる訳です。


 これが、単語だけではなく、文法にも影響があって、例えば、不定詞で使われる「to」ですが、これは本来「到達点(目的地)」を表す単語で「I go to school.」は「学校を目的地点として行く」という意味なんです。それが「学校へ行く」ということになるんですよ。だから、不定詞で使われたとしても「something to drink」は「飲むことを目的とした物」ということで、結局「飲み物」という訳になるわけで、だから、これを「形容詞的用法」とやったところで、あまり意味はないような気がします。


 現在完了などもそうで、文法的には「継続」「経験」「完了」なんていう用法があると習う訳ですが、元々は「過去の事実が現在の状況に影響を与えている」という意味合いのときに使う形なんです。

 具体的に言うと「The bus has gone.(バスが行ってしまった)」というのは、「バスが行ってしまった」という事実を伝えたいのではなくて、例えば「乗る予定だったバスに自分は乗れなかった」というような状況、すなわち「予定していた時間にそちらに行けないかも知れない」というようなことを伝えたい訳で、これを原理に当てはめると「バスが行ってしまったという過去の事実によって、現在の自分の状況が、予定通りに物事を進められない状況になってしまっている」ということを伝えたい訳です。

 これを日本語として考えると、例えば、バスに乗って塾に通っている子がお母さんに「お母さん、バスに乗り遅れちゃった」と携帯で連絡をしたときには「バスに乗り遅れたこと」を伝えたいのではなくて、その事によって「塾に行けなくなった」ということを伝えたい訳で、結果、お母さんから「今から、車で迎えに行くから、バス停で待っていなさい」というような返事が来るわけですよ。これと同じなんです。

 そして、元々の意味をしっかり追求していくと、こういう風に、英語がもっとリアルになるわけで、本来、こういう事が英語に求められているのではないかと思ったりもします。ただ、ここまでのレベルになると、元々の国語力がかなり必要になると思いますが・・・。

 ということで、「原理回帰」は決して理系だけの物ではありません。文系科目でも利用価値は高いと思った方がいいでしょう。そして、その裏を返すと、文系であっても、ある程度理系の考え方に対応できるようになっておかなければならないということでもあるんですね。


 さらに、この「原理回帰」が本領を発揮するのは「文法」に関する内容になったときなんです。ということで、ここでは「原理回帰で文法を押さえると、英語がもっと楽になる」ということをお話しようと思います。

 さて、ここでお話するのは「文型」というやつ。第1文型〜第5文型まであって、お父さん・お母さんの頃は「さて、この文章はどの文型に当てはまるでしょうか?」という問題で悩んできたところですよね。

 で、この文型というやつ、本当はすごく大切なのですが、いかんせん、自分たちが学生の頃は、教師の説明が悪かったんですね。たぶん、自分たちの学生時代よりももっと前から、英語はずっと「解法記憶」で教えられていたため、英語教師もとにかく「解法記憶」で勉強していたんだと思います。したがって、原理から物事を考えるということが出来ずに、とにかく「解法を覚えろ」パターンで教えようとしていました。ですから、理系派が得意とする文法の説明が「原理から離れた内容」になってしまっていて、特に文型については「この文型という物が、英語の訳にどのように当てはまるか」ということではなく、大抵はテストの問題として「文型を答えさせたらそれでお終い」という英語本来の「英文の意味をとらえよう」という働きからずれた扱い」になっていたようなところがありました。

 また、文型に限らず、本来「英語の訳ができるようになるために教えられる文法」のはずが、「訳をしてから、どの文法に当てはまるか考えよう」方式で教えている教師もいて、完全に本末転倒状態。そのため、ゆとり教育時代では、中学校では、文型は第4文型と第5文型が少し扱われる程度で、その他はほとんど重視されて来なかったわけです。


 ところが、この文型を知っておくと、訳に困らなくて済むということが多々あるんです。で、ここでは一番パワフルな第2文型についてお話しておきます。

 第2文型と言うと、いわゆるbe動詞が絡む文型ですね。 This is a pen. I am busy. の文型ですよ。  で、この文章、be動詞の部分の訳を「〜です」と教えられたんですが、これがそもそもの間違い。実はbe動詞は「〜の状態である」という意味なんです。今では、気の利いた先生は「ある」「なる」「いる」で訳せ、と教えてくれるんですが、その方がずっといいですよね。

 さて、この第2文型、高校では He looks happy.(彼は幸せそうに見える) という例文も必ず出てきて、学校では「動詞をbe動詞に置き換えても意味が通じる場合」「動詞を挟んで前後を=で結ぶことが出来る場合」は、第2文型だよ、と教えられて来たんです。  ちなみに He looks happy.は He is happy.と言い換えても意味が通じる文章になるので、第2文型と判断できる訳ですよね。


 そして、大事なのはこれからなんですが、実は、第2文型のうち「主語・動詞・形容詞」のパターンでは、長文で訳に困った場合、たいてい「ある」「なる」「いる」で訳しておくと、とりあえず意味が通じるぞ、ということなんです。

 例えば、「私はお腹が空いた」という文章の場合、 I am hungry.  ですね。  これが、動詞が変わって、 I become hungry. I get hungry. I go hungry.  となっても、結局、意味は変わりません。英語の持っているニュアンスはあるのでしょうが、結局、どれも「お腹が空いた」という意味になります。

 ところが、文型を知らないと、 I go hungry. の訳が「お腹が空きに行く? 何これ?」となってしまうわけで、結果「学校で普段使っている単語の意味を知っていても、訳が出来ない」もしくは「辞書を見ても適切な訳が見つけられない」という状況になってしまうんですね。


 実際に、今(2012年当時)、中学2年生が使っているワン・ワールドの教科書の「stone soup」では「We will never go hungry」という文章が出てきて、ここで生徒は「お腹がすきに行く?」と考えてしまい、訳が分からなくなってしまうんです。

 そうなってから、そこで先生の「go」には「〜になる」という意味があるんだよという説明を受けて、辞書の最後の方に書いてある「〜になる」という意味を発見するという状況です。でも、ここで「分からない文章が出てきたら、とにかく辞書を隅から隅までよく見なさい」と説明するよりは、「第2文型が出てきたら、とりあえず動詞で、ある・なる・いるに近い意味がないかどうか探せ」と説明する方が、生徒の負担は軽減出来ると思いますし、他の場合でも類推でいろいろな事が出来るようになってくるだろう、ということなんです。


 そして、さらに大切になるのは、言葉を使う場合、みんな無意識に文法を使っているということなんです。  例えば、日本語でも「私はお腹が空いた」という場合、ちゃんと主語や述語を適切に使える訳で、間違っても「私でお腹に空いた」とは言いません。主語には助詞の「は」「が」をつけるという文法内容が無意識のうちに身についているからなんです。ですから、おそらく英語を話している人たちは無意識のうちに文型を理解して、それを使っている訳で、その文法を説明せずに馴染ませましょうということになると、日本語が身についたのと同様の時間を使い、日本語と同じくらいの量の単語に触れなければならないんです。それを、たかが週3時間や4時間程度の授業で身につけさせるのは不可能に近い技でしょう。

 だから、英語には「文法」という「根本原理」があって、それを「原理回帰」させながら身につけさせないと、いつまで経っても理解が伴わないことになる、と言う可能性が極めて高いのです。


 「ジーニアス英和辞典」では、単語を調べる際「文型ごとの表記」になっていて、要するに「この文型のときには、この訳語を当てろ」という配列の仕方になっています。ということは、文型によってどの訳語を当てるかが変わってくるということなんですね。そのくらい文型というのは大事なんですよ

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