これも2016年に書いた内容です。当時、話題になった「式の作り方」についての話です。
<キーワードは「倍」>
ちょうど小学校2年生の子供達がかけ算を習っていて、その文章題での式の作り方が別のところでも話題になりました。要するに「3×5」が正答で、逆の「5×3」にすると不可となるのは納得が行かない、という話です。 それで、指導する側ではこのように考えているんですよ、という事を書いておきますね。話を聞いても「納得が行かない」という方もいるかも知れませんが、指導者側の考えているところを知っておくと、学校の先生とおかしなトラブルにはならないと思いますので、参考にしてください。
問題の文章は「リボンを5人に3本ずつ配ります。全部で何本いりますか?」というもの。この問題で「3×5」はオーケーで「5×3」はダメですよ、という話なんです。
それで、ここではまず最初に「かけ算」の考え方について話をしておきますが、かけ算というのはそもそも「何かを何倍したもの」という事なんですね。それで、立式においては「○の△倍」で「○×△」という形になるんです。そして、○のことを「かけられる数」、△の事を「かける数」というんです。だから、この△のところには「倍」に当たる数字が来るんですね。 そこから、上記の問題文では「3本の5人分で15本〜3本の5倍で15本〜3×5=15」という式が正解と判断します。
それでは、5×3だとどのような解釈になるか、ということなんですが、 この場合、「5人の3倍は15人」という解釈にすると、人数を求める式という事になってしまいます。答えは同じでも、求めている内容が不適切となるんですね。また「5倍の3本」となると、これは日本語的に変ですね。となると、これを放置しておくと、文章を解釈するときの国語力に後々支障をきたすんです。ですから、ちゃんとした式を作りましょう、という話になるんです。学校の先生の中には、まず、問題の文章を一旦「式を作るときの言葉に直してから、数字で式を作らせる」という指導をしているところもあるんです。そこまでやってくれている先生って、本当に丁寧に教えてくれていると思いますよ。
正直に言うと、これ、ちゃんと先生の話を理解している子は、普通に「3×5」の式を作って、先生に○をもらってお終いなんです。それを逆に書いてしまう、ということは、意味をきちんと理解していなかったり、意味が分かっていても式にきちんと表すことが出来なかったりしている子、という事になりますから、不可にされてしまう、と考えておいてください。要するに「中途半端に出来ていても、それは認められないんですよ」ということです。
そして、非常に危険なのが、安易に「5×3」を認めてしまうと、子供さんの中に「単に文章に出てきた順に数字を当てはめて式を作る」という感覚の子が出てくるんです。この問題の場合、文章をちゃんと読まずに、出てきた数字の順に「5×3」とやっている子もいるんですね。そういう子が中学校に行くと、こんな式を作ります。
「50円の品物をx個買って300円を払ったときのおつり、を文字式で表せ」という問題で50x−300とやってしまうんです。これ、実は、今の高校3年生〜大学生に当たる年齢の子供さんが中学生のときには、半分近く(ひょっとしたら半分以上!?)、こういう式を作っていたんですね。もちろん、これだと「ひかれる数」と「ひく数」の関係が逆ですよね。でも、子供達は、文章で出てきた順に数字や文字を当てはめて、適当に式を作ってしまうようになるんです。そして、この世代が以前話題になった、全国学力テストの「100人の40%を求めなさい」で正答率が34%だった世代なんですよ。
結局、こういう感覚になってしまったのは、小学校低学年のときに、式をきちんと作る、という感覚が身につけられなかったところに、一番大きな原因があったんですね。
さらに、周りの大人がいいように解釈して上げて「5×3」でもいいよ、と言ってあげたとしても、子供さんは、そのようには受け取らず、最悪の場合「文章で出てきた順に数字を当てはめてもいいんだ」と考えてしまう子も出てくる、と思っていた方がいいんです。お父さん・お母さんがきちんと勉強を見て上げられる人ならいいんですが、共働きなどで、そんなにしょっちゅう見てあげられない、という場合であれば「ちゃんと学校の先生の言うことを聞いておきなさい」と言っておいた方が安全だと思っていた方がいいと思います。
ちなみに、ここで書いた「倍」には系統があって、この後「わり算」でも「倍」が出てきますし、皆さんご存じの%も、基本は「倍」の感覚が使われます。「500円の30%」は「500円の0.3倍」という意味ですし、帰省ラッシュの報道で「新幹線の乗車率120%」なんていう話が出てきたら、これは「定員の1.2倍」の人数が乗っているということが分かればいいわけですよね。ですから、簡単なように見えますけれども、簡単だからこそ、小学校の低学年の段階でしっかり「身につけるものは身につけさせる」という感覚が大事になります。これが指導側から見た「かけ算」の立式なんですね。
ということで、この辺の内容をふまえて、子供さんの答案を見てください。また、学校の先生方も、保護者からいろいろ言われるかも知れませんが、そういうったものにはくじけず、頑張ってくださいね。
ただし、先生によっては、上記の内容を理解せずに「先生の言うとおりにしないとダメ」という感覚だけで指導している先生も中にはいると思いますから、そういう先生には、お父さん・お母さんの方から、こっそり、上記の内容を教えてあげてください。
(追記1) 書くのを忘れていた内容があったので、追加しておきます。まずは「交換法則」についてです。「結局、答えが同じになるんだから、どっちでもいいでしょ」という人もいると思いますが、これ、実は「交換法則」の使いかたの勘違いから来ています。本来、交換法則というのは「要領良く計算する方法」であって「立式」には用いないものなんです。 実際に「交換法則」を習うのは小学校4年生で、そのときには「計算のくふう」という単元で扱います。で、単元名を見てみると分かると思いますが、結局のところ、計算の仕方で習っているんですよね。 ですから、文章問題の答えを出すまでの流れとして「最初は、文章をきちんと読んで立式」、そのあと「交換法則・結合法則・分配法則」を使えるものは使って、要領よく、速く・正確に計算して答えを出す、ということになります。
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